人類最後の試練

昨日の記事の反響が大きかったので補足をしよう。

1.なぜAIが囲碁で勝った位の事が大変な事なのか?
今まで「AIの情報処理は大した事ない」とされてきた大きな根拠の一つが「囲碁では人間の方が強い」だったから。囲碁は石を置く自由度が高く、盤面も広いため従来の問題解決手法ではマトモな成果を上げられなかった。だから人間の方がAIよりも強く、AIが勝てるようにする方法も見当がつかなかった。そして人間はこれを根拠に人間の優秀さを誇っていた。これがいわば人間の知性の優位性を保証する最後の砦だったと言える。
それがディープラーニングという機械学習手法が発見され、これを活用する事でAIは人間を凌駕できるようになった。つまり、今まで人間にしかできなかった事がAIにもできるようになり、それが人間を遥かに超えてしまう性能を発揮してしまったのだ。人間の知性の優位性はもう誇る事ができなくなってしまった。囲碁より人間が得意であろうゲームは無い。AIは今後も進化が続く、つまり人間は未来永劫ゲームでAIに勝つ事はできなくなってしまったわけだ。もちろんトッププロがたまに番狂わせで勝つような事はあるかもしれないが、勝ち続ける事はもはや不可能だ。
これはゲームの話に留まらない。ある問題を設定した場合、人間よりAIの方が最適解を出せるという事だから今後産業界の多くの分野でAIが使われ始め、結果として人間の活動領域はどんどん減っていく事に繋がってしまう。

2.コスト面でAIは不利だから人間の労働は安泰なのでは?
確かに現時点でのAIシステムは大変コスト高だ。しかし、IT機器のコストは年々安くなっている。これはどんなに高いコストでも時間が全てを解決してしまうという事になる。コストが理由で人間の労働が安泰だというのは後10年もつのか20年もつのか分からないが少なくとも100年はかからないだろう。
そもそも既存のコンピューターの多くは何億ものトランジスタを積みながら逐次処理しかやって来なかった。これは明らかに異常進化であり、AI向きとはいいがたい。並列処理を前提とした演算処理系への移行が進めば進化の速度はグンと上がり、コストも一気に下がるだろう。
また、もし量子コンピュータの実用化が行われるようなイノベーションが有ったらコストの問題は一瞬で全部解決してしまうかもしれない。
だからコスト差による安全性という議論は本質的には意味がないし、そもそもAIに人類が勝てる理由が「人類は安いから」ってあまりに情けなくないか?

3.AIは手足が無いんだから脅威ではないのでは?
この動画を見てもらいたい。

eigo-no-jikan.hatenablog.com


マニュピレーターはどんどん学習で賢くなる。人間の手で行える事はもうマニュピレーターで十分なのだ。移動なら自動運転車やドローンがある。AIが物理的な活動をする下地はもう出来上がっている。後はコストの問題だけだ。しかしこれも時間が解決してしまうだろう。24時間365日ノンストップで労働基準法も関係なく、どんな危険な場所や過酷な環境でも淡々と成果を上げ続けるロボットに人間はどうやって対抗して行ったらいいだろうか?
また、そもそも日本のオフィスワーカーは2500万人、全就業人口の4割に相当する。彼らはオフィスでPCを叩いているだけだ。ここの代替だけでいいならロボットすら要らないのだ。

4.人間とコミュニケーション取れない機械には人間の代替は無理
個人的には最後の砦がここだろうと考えている。人間は曖昧な言動でコミュニケーションしてくるので何を要求しているのかが簡単には分からない。まずその意図を理解する事が必要であるが、それは人間の特性に依存しているので合理性が無く解析が難しい。意図が分からなければ何を欲しているのかもどうしたら満足するかも分からないのでサービスとしては成り立たない。
AIが人間の労働の代替をするにはこの問題の解決が必要である。そしてそれにはまだ時間がかかるだろう。理由はデータを多量に取る事が困難だからだ。データを取るには例えば1000人の一挙手一投足、発言内容を1年分アーカイブしないとならないがそれはプライバシーの問題含めていろいろ問題が発生してしまう。逆にこれが取れてしまえばあっさり解決してしまうかもしれないのだが。

5.働かなくてもいい社会なんて夢物語だ
「働かなくていい」というより「人間なんかに仕事なんて無い」が正しい。それは最初アウトソーシングから始まるだろう。

経理のアウトソーシングやりませんか?安く素早く正しくやりますよ!

そう言う会社が出てきて中身は全部AI。
次に
人事総務の…、商品企画の…、工場管理の…、そして最後に経営のアウトソーシングやりませんか? になる。安くて成果を出せるアウトソーシングなら使わざるを得ない。使わなければ競合他社に負けてしまうからだ。そして全社が使い始める。

新しい仕事ができるって? 確かにできるだろう。5000万人の仕事が無くなり10万人の新たな仕事ができるね。
街中に無職が溢れかえる事に変わりはない。
社会を維持するには無職でも生活できるようにさせるしかない。それはベーシックインカム以外考えにくい。


さて、ではこのような変化がどの位の期間で進行するだろうか?
インターネットが一般に普及してから大体20年でここまで達している事から考えるとやはり20年位のスパンを考えるといいかも知れない。無職が溢れかえるまで20年だ。この時人類が正しい方向に社会を変革できるのか、混沌とした混乱から戦乱に堕ちてしまうのか、それは市民の良識に懸かっている。私はこれを人類最後の試練だと考えている。
さて、君たちは乗り越える事ができるかな?